秋の夜長に何を読もうかと思い、ふと本棚に突っ込んであった一冊の本に目をとめました。シェークスピアです。世界文学全集なるものがその昔我が家にはありました。ほとんど読んでいません。ただ、どういうわけかシェークスピアとトルストイにははまったことがあり、今でもその内容を何かの拍子に思い出すことがあります。
シェークスピアと聞いて何を最初に思い浮かべますか?たとえばロミオとジュリエット。これは純愛物の古典ですよね。反目しあう名家の子息と娘の許されない恋が、悲劇的な結末を迎えるというもの。その死の場面を覚えておいででしょうか?そう、長老の入れ知恵で、ジュリエットにある薬を飲ませ、仮死状態にさせます。これはその時追放処分になっていたロミオとの結婚を成就するための計略だったのですが、ロミオにはうまく伝わりませんでした。本当にジュリエットが死んだと思ったロミオはジュリエットの傍らで本物の毒をあおり息絶えます。そのすぐあとに仮死から目覚めたジュリエットは事態を理解し、すぐに自分もロミオの後を追うという展開でした。かわいそう~
確かに哀れではありますが、しかしそれほどの悲劇を感じさせないのはなぜでしょうか?あまりに純粋すぎる恋がうまくいかにのは至極当然。読むものは誰でも壊れやすい純粋さと、たいていの初恋がはかなく終わってしまうことを知っています。若さゆえの情熱を羨ましく思いながらもどこかででもね。。。家柄を重んじるがために、大事なわが子を失うことの愚かさとそして皮肉と滑稽さ。命より大事な家柄って何?
さて、子供の頃にはこの物語がかなりのお気に入りでした。ところが歳を重ねるに従って、同じような悲恋ものでも、もっとドロドロしたものを好むようになってきました。たとえばオセロ、そして今一番気に入っているのがアントニーとクレオパトラなんです。
オセロもかなりいいですが、あまりにも男の嫉妬が生々しく描かれているために、少し重たい気がします。むしろ手練手管で男性を翻弄し、結局はその男性を破滅させてしまう女の性の権化のようなクレオパトラと、その毒牙の餌食になってしまったアントニーの物語の方が興味をそそられます。もちろんその結末はとても悲しいものでした。かつて、ブルータスをみごとな弁舌で弾劾し、数々の戦功輝ける武人の鏡が、エジプトの女王の掌に転がされて破滅していく様は、思わず息をのむほど。なぜこれほどまでに?
オクタビアヌスとの海戦で大敗を喫するアントニーですが、その戦いにクレオパトラも出陣していました。夫婦(?)で戦にでるという勇ましさは巴御前を思わせますが、情けないことにクレオパトラは戦線から途中で離脱、さっさと逃げ帰ります。そして、アントニーも彼女を追って部下を置き去りにして逃げ出してしましました。理性を蝕まれてしまった信じられない行動です。
その後再起をかけてアントニーは再びオクタビアヌスとの決戦に挑みますが、これからというときに彼の命運が尽きていることを悟った腹心の部下エノバーバスに裏切られます。自分を捨てて敵陣に寝返った部下に、アントニーは所持品に手紙を添えて送り届けてやります。「達者で暮らせ。主人を変えねばならぬようなはめに、生涯二度と追い込まれるな!」
やはり腐っても鯛。理性を蝕まれ、やがて理性の土台が亡くなったあとは破れかぶれの暴挙。勝てるはずはありません。ツキも味方しないし、まして肝心のクレオパトラが良かれと思いながらもアントニーをどんどん窮地に追い込んでいく様が理不尽でもあり不可解でもあり。一体なんでしょうね。最後の決戦で、実はかなりいいところまで行っていたのです。ひょっとしたらアントニーに勝機があったやもしれません。しかし、またしてもクレオパトラが策を巡らします。それはおそらく女王という立場もあったでしょうし、また保身をはかったのかもしれません。もしくはアントニーにとっても良かれと思っての行動だったのかもしれません。陸で戦う兵を率いるアントニーは、海の戦いの様子を確認しようと高台から見てみると、なんと艦隊は早々降伏しているではないですか。ひそかに敵と通じてさっさと降伏してしまっているのです。
まんまとエジプト女にはめられた~怒り心頭のアントニーをうまくはぐらかすために、ここでクレオパトラは死んだことにして使者にそのことを伝えに行かせます。この嘘をなんとアントニーは真に受け、もう身も心も理性もなにもかもクレオパトラに持っていかれていたアントニーは後を追おうと自らに剣を刺します。息も絶え絶えのアントニーのもとに、今度は次の使者が「実はさっきの私が死んだというのは、あなたの怒りをなだめようとしてついた嘘だったの」とクレオパトラの口上を伝えます。えー、そんなあ。そうなるとクレオパトラに一目会ってから死にたいと、アントニーは従者に命じて彼女の傍にその身を運ばせます。
なんだかロミオとジュリエットの死の場面を彷彿とさせます。しかし、こちらの方が断然肉薄しています。切ないなんて言葉では言い尽くせない男女の不思議を感じさせてくれます。悲しいけれど、瀕死の状態で最後にクレオパトラの腕に抱かれて旅立つかつての英雄のなんだか情けない死にざまを、私は笑うことができません。あっぱれ、そこまで恋におぼれりゃー、てーしたもんだ。クレオパトラのような自己中女に翻弄されても、きっと彼自身は結構幸せだったのかもしれません。世界の英雄でいるより、たった一人の最愛の女性と一緒にいたかった。ただそれだけだったのかな。
それにしてもクレオパトラって酷い!ええ加減にせーよ。でもやっぱり悪女は魅力的。
結局あれでしょう?自分のことしか考えてへんかった。でもアントニーはやはり好きだった。でも自分が可愛いし。馬鹿もーん!!蛇に自分を噛ませて死のうと思ったのも、もう若くもないし、次の男性をアントニーやシーザーの如く転がせることはできないし。ローマに引きずり出されて見世物になるのも嫌だし、ましてアントニーの前妻に馬鹿にされるのも癪に障る。そんなこんなでそれほど苦しまなくて済むし、綺麗に威厳を保ってせめて女王として死にたいと、ね。
クレオパトラはアントニーの傍らに葬られたということです。ちょっとクレオパトラが羨ましいかもね。そして二人の間に生まれた子供たちはアントニーとの前妻が面倒を見てあげたのだとか。
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