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2007年11月

秋の夜長(2)

『コーポレート・ファイナンス入門』(砂川伸幸)日経文庫から

難しそうなテーマなのにあっという間に読めてしかも理解しやすい。一冊読み終えた後には少しだけ自信がついていることを受けあいます。学生の方なら基礎固めにお勧めの一冊ですし、すでに企業で務めている方には少し優しいかもしれませんが、やはり一度は読んでおいてほしい一冊です。最近では「株主重視の経営」であるとか、また株主の意見を企業活動に活かそうとする(コーポレート・ガバナンス)考えもよく叫ばれるようになりましたので、その意味でもやはり勉強しておきたいテーマです。

 さて、企業が扱うマーケットには三つありますね。ヒトのマーケット(雇用、人材)、モノのマーケット(設備、原材料)そしてお金のマーケット(資金)と付き合っていくわけですが、勿論コーポレート・ファイナンスが取り扱うのはお金のマーケットです。このマーケットで企業が資金を調達するには大きく二つの方法があります。ひとつは負債調達;この場合の投資家は銀行、今一つは株式調達;この場合の投資家は株主。そして投資家からすれば、リスクとリターンを考慮して投資行動をとるわけです。ここでいうリターンのことを「資本コスト」と呼びます。この資本コスト(Cost of Capital)が稼げれば企業は資金調達がしやすいのは言うまでもありません。この「資本コスト」を常に念頭に置いて企業経営を行うことが「株式重視の経営」であると言えます。

 ここで面白いと思うのは、「企業価値と企業の資本構成(負債と株式の構成)は無関係」だということです。初めてこの文章を読んだときにはいっている意味がいまひとつ分かりませんでしたが、なるほどそう言われてみれば、資本構成が異なる企業であっても生み出すキャッシュフローが同じであるなら、株主は資本構成にかかわらず市場原理に基づいて行動する、つまりマーケットの評価に従って行動する(「マーケットにおける裁定取引」)わけですからそうだと言えます。(ちなみにキャッシュフローとはキャッシュインフロー;入ってくる現金からキャッシュアウトフロー;出ていく現金を引いたもの。このあたりの用語も押さえておく必要がありますね。)この理論はノーベル経済学賞の受賞者が提唱したものです。さすが!

 ※負債比率=レバレッジ(Leverage)またはフィナンシャル・レバレッジ(Financial Leverage)

    マーケット・ポートフォリオ=日経平均やTOPIXのような株式市場全体の指標

  日経平均=日本の代表的な企業225社の株価平均

  TOPIX=東京証券取引所一部上場企業の株価の平均

 企業経営をしている筆者の弟が、ビジネスプランを立て、投資家に会い、資金を調達し、キャッシュフロー(「企業活動の成果」)を生み出していくその過程をそばでつぶさに眺めながら、あらためて経営の面白さと難しさを実感しているこの頃です。

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秋の夜長

『資本主義を語る』(岩井克人)を読んで(要約と書評)

料理好きの私は香辛料や調味料を欠かすことができません。味噌、醤油、ソース、みりん、豆板醤にオイスター・ソース、ターメリック、シナモン、ガーリックパウダー、七味トウガラシにローリエにクローブ、そしてなんといっても胡椒ですね。この胡椒、今でこそ比較的安価に入手できるようになりましたが、その昔、そうベニスの商人たちが世界をまたにかけて活動していた頃には相当高価なものでした。

ベニスの商人たちが船に金銀を乗せ、地中海からインド洋に向かい、無事インドで金銀と交換に胡椒を手に入れ、それを本国に持ち帰って売りさばくと、インドでは安く手に入る胡椒が本国では、投下した金銀の20~30倍で売れたわけです。まさに、地域の値段の格差を利用した商売だったわけです。当時の航海ですから、今よりも格段に多くのリスクが存在していたはずですが、その危険を冒しても余りある利益が得られた。まさに異なる土地間の「差異の原理」(p.18)に基づいた資本主義でした。この「差異」によって商人は利潤を蓄積していきました。この「差異の原理」を国家にあてはめたのがいわゆる重商主義(Mercantilism)ですね。

その後、時代は産業革命に突入し、大学で一度は聞いたことのあるアダム・スミスやデービッド・リカードたちが登場する時代となります。経済学史ではこの時代の経済学を古典派経済学やマルクス経済学で学んでいきます。この経済学は、上記の「差異の原理」が国を富ますのではなく、国の富は人間の労働が造りだすのだという考え方に基づいて展開していきます。まさに人間が価値を作り出すというので、この時代の資本主義を「産業資本主義(Industrial Capitalism)」と呼びます。ちなみにマルクス経済学では、この利潤を資本家が蓄積(搾取)するとしていました。

それでは現代の資本主義はどのような性質を持っているのでしょうか?インターネットがここまで普及した今、国家間の交換比率の差異が利潤の基本になるわけではありません。人が時間と労働を投下した分だけ利潤を生みだすという時代でもありません。むしろ、自ら「差異」を作り出す時代であると言えます。このことを著者は「ポスト産業資本主義においては、差異そのものを商品化し、差異そのものを意識的に創造することによって利潤を得ている」と述べ、さらに「人間ではなく差異が中軸にある」としています。これはなかなか面白いかもしれません。胡椒を売買していたベニスの商人のころと同じように、現代も「差異」が利潤の中心にあるのですから。

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